2015年11月16日月曜日

アカハラダカの渡り観察

2015年9月12日(土)、環境・景観グループのOFF-JTの一環として、天草市六郎次山におけるアカハラダカの渡り観察を行いました。
アカハラダカは、名前のとおり、腹に赤味のあるタカで、大きさはハトくらいの小さな猛禽類です。

アカハラダカ(成鳥)

本種は中国東北部から朝鮮半島で繁殖し、東南アジアで越冬する渡り鳥です。
秋、繁殖を終えた個体群が、越冬地である東南アジアへの渡りを行う際、ほんの短い期間(主に9月中旬)ですが、日本では対馬や九州西岸、南西諸島などにおいて観察することができます。
アカハラダカの秋の渡りコース


では、渡りとはどういうものか?
アカハラダカの場合、繁殖地から越冬地までの距離は3,000km以上にも及びます。
しかも、コースの大半は休むことができない海上、また、渡り中は十分な獲物も確保できない可能性があり、渡りはまさに命がけです。
このため、アカハラダカは、はばたくことを極力少なくしたエネルギー効率の高い飛翔方法で渡っていきます。
上昇気流を利用して旋回帆翔上昇し、十分な高度に達したところで一気に滑翔、滑翔によって少しずづ高度が下がってくると再び上昇気流を見つけて高度を上げ、滑翔・・・、アカハラダカの渡りはこの旋回帆翔と滑翔の繰り返しであり、これによってエネルギー消費を極力抑えた移動が可能となります。


アカハラダカの飛翔方法

さて、当日朝、六郎次山の山頂には既に多くのバードウォッチャーが訪れており、皆さんと一緒に観察を開始しました。


タカの渡り観察の基本は「じっと待つ」ことです。
前述の飛翔方法からもわかるとおり、渡りコース上に上昇気流がなければ、渡りを行うことができず、待っても待ってもタカは来ないということもよくあります。
今日はどうだろうかと不安を抱えていたところ、7時43分、1羽のアカハラダカが頭上にやってきました(最初の写真)。とりあえず一安心です。

渡りの斥候の出現後、少しずつ数が増えはじめ、8時以降は渡りの個体が大挙して押し寄せ、時には150羽もの群れが目の前で旋回帆翔上昇する、いわゆる「タカ柱」を見せてくれます。そして、1羽が滑翔に移ると、他の個体もこれに引っ張られるように続いて滑翔に移り、アカハラダカが川のように流れていきます。
8時以降、少しずつ数が増えていきました
山頂北側の山林をバックに旋回帆翔上昇中の群れ
旋回帆翔上昇の様子は「タカ柱」と呼ばれます
このフレームだけで約70羽、群れの全ては写りきれません
高度が上がり、雲の中に・・・、こうなると正確な数がわかりません(雲の中に無数の影がうっすら見えますが・・・)
1羽が滑翔に移ると他の個体もこれに続いて滑翔に移り、まるで川のように流れていきます




終わってみれば、1,000羽を超えるアカハラダカの渡りを観察でき、大変見ごたえのある1日となったわけですが、秋にはこのように多くの個体が観察できるにも関わらず、越冬地から繁殖地への春の渡りは全く観察することができません。これは、春と秋では渡りのコースが異なり、春は日本経由の海上コースではなく、中国大陸を北上して繁殖地に移動する陸上コースを渡るためと考えられています。
そもそも、アカハラダカが日本を定期的に通過していることがわかったのも1980年代になってからのことであり、タカの渡りにはまだまだわかっていないことが多いのが現状です。
しかし、同じ調査を同じ時期に同じ場所で毎年継続することでデータが蓄積され、渡り特性のみならず、その種の全体数の変化を把握することも可能となり、今後、多くのことが解明されていくものと期待されます。

最後に、アカハラダカ以外にも渡り中の生き物が撮影できましたので、下記にご紹介します。


ハチクマ(こちらは南に渡るのではなく、東シナ海を越えて西側に渡っていきます)
ハリオアマツバメ(飛翔速度が時速200kmに達するといわれており、地球上で最も早く移動できる生物かも)
渡りを行う蝶アサギマダラです(アカハラダカと同じコースをヒラヒラと風に舞って南下していきました)
文責AH